第3章 力を伝える / 15
変速機はなぜ必要か
坂を登るときも、速く走るときも。同じ動力源から、その場に合う回転を取り出したい。

疑問|ずっと同じ歯車ではだめ?
自転車で重いギアを選ぶと、発進のひと踏みが大変です。軽いギアなら出やすくなりますが、速く進むには足を忙しく回さなくてはなりません。車でも、必要な車輪のトルクと回転速度は、発進、登り坂、高速走行で変わります。
問題|車速と動力源の都合が合わない
エンジンは止まった状態から、そのまま燃焼で軸を回し始めることができません。運転を続けられる回転速度には下限も上限もあり、効率よく仕事をする範囲も限られます。大きく減速する比だけなら発進を助けますが、車速が上がるにつれてエンジンの回転が高くなりすぎます。小さな減速比だけでは、発進に必要な車輪のトルクを確保しにくくなります。
発明|走る場面に合わせて比を選ぶ
変速機は、入力と出力の回転速度の比を変える装置です。発進や急な登りでは大きな減速比を使い、車輪へ大きなトルクを渡します。速度が上がったら小さな減速比へ切り替え、動力源が回りすぎないようにします。「低い段」は一般に大きな減速比、「高い段」は小さな減速比を指します。段の数字と減速比の大小は逆になるので注意しましょう。
仕組み|選ぶのは力の通り道
手動変速機では、かみ合って回る歯車のうち、どの組を出力軸につなぐかを切り替える構成がよく使われます。歯車そのものを無理にぶつけるのでなく、同期装置で接続部分の回転速度を近づけてからつなぎます。切り替えの際に入力を一時的に切り離す役目は、次の記事で扱うクラッチが担います。
自動変速機にもいろいろあります。遊星歯車という、中心の歯車とその周囲を回る歯車の組を使い、固定・接続する要素を選ぶものがあります。二組のクラッチを使って次の段へ受け渡すものもあります。CVT(無段変速機)は、段を区切らず連続的に比を変えます。ベルトなどと、実効的な直径を変えられるプーリーを使う方式が一例です。
変速機の先には、さらに減速する終減速機がある構成も一般的です。変速機の比が1でも、動力源と車輪が同じ速さで回るとは限りません。全体の比を見るには、途中の各減速比を掛け合わせます。
進化|変速段が多いほどよいとは限らない
段数を増やせば、動力源を都合のよい回転範囲に保ちやすくなります。しかし部品、重さ、制御の複雑さも増えます。自動制御は車速だけでなく、要求する加速や坂なども考え、どの比をいつ使うか決めます。
モーターは停止付近からトルクを出せ、広い回転範囲を使えるため、多くのEVは一つの固定減速比で走れます。それでも最高回転速度や高速側のトルクには限界があり、複数段を使うEVもあります。変速機を使うかどうかは、動力源と車全体の目標から決まるのです。