第3章 力を伝える / 16
動力をつないだり切ったりするには
回っている側と、まだ止まっている側。いきなりつながず、少しずつ仲間にする方法がある。

疑問|車が止まってもエンジンは回れる?
信号待ちでは車輪が止まります。それでもエンジンを動かしておける車があります。もしエンジンと車輪が、固定した比で常にがっちり結ばれていたら、車輪を止めるとエンジンまで止まってしまいます。どこかで回転の違いを許す必要があります。
問題|回転速度の違うものを急につなぐと
回る軸と止まった軸を硬く結ぶと、回っていた側が急に減速し、止まっていた側が急に加速しようとします。その変化は、乗る人への衝撃や部品への大きな負担になります。変速時にも、伝達するトルクを調整して接続を切り替えたい場面があります。「つながる」「離れる」だけでなく、その間をなめらかに移る仕組みが必要です。
発明|円板を押し合わせ、摩擦で受け渡す
クラッチは、動力の伝達をつないだり切ったりする装置です。摩擦式クラッチでは、入力側と出力側の円板を押し合わせます。離すと伝達を切り、押し付ける力を増やすと、より大きなトルクを伝えられます。接触しながら回転速度に差がある状態が、いわゆる半クラッチです。
仕組み|滑りは衝撃を和らげるが、熱を生む
半クラッチでは、摩擦が出力側を回し始める一方、入力側の回転にも抵抗を与えます。両側の速さを徐々に近づけられるので、発進をなめらかにできます。同じ速さになって十分に押し付けられると、通常は滑らず一緒に回ります。摩擦は「滑っているときだけ働く力」ではなく、滑らない接続でもトルクを支えています。
滑っている間は、伝えるエネルギーの一部が熱になります。同じ伝達トルクなら、回転速度の差が大きいほど発熱の仕事率も大きくなります。滑りを長く続けると、温度上昇や摩耗の問題が起きます。滑りは便利ですが、無制限に使える調整方法ではありません。
別の方法に、油の流れで回転を渡すトルクコンバーターがあります。入力側のポンプが油を動かし、その流れが出力側のタービンを回します。さらに流れを整えるステーターが働く条件では、出力トルクを入力より大きくできます。その際も回転速度の差や損失があり、エネルギーを増やしているわけではありません。
進化|つなぎ方を選び、損失を減らす
トルクコンバーターでは、走行条件に応じて内部を機械的につなぐロックアップクラッチを使うものがあります。油を介する滑りを減らし、効率を高めます。摩擦クラッチにも、油で冷却する湿式や、油に浸さない乾式があり、扱う熱やトルクに合わせて選ばれます。自動化された装置は、押し付ける力や接続のタイミングを制御します。
多くのEVでは、停止中のモーターも止められ、そこから回転を始められるため、エンジン車と同じ発進用クラッチを必要としません。一方、駆動する軸を切り替えるための切り離し装置などを備える構成はあります。必要な接続装置は、動力源と伝達経路の組み合わせで変わります。