MOTORCAR — KNOWLEDGE & TOOLS

第4章 道路とつながる / 19 / グリップ

タイヤはどう地面をつかむか

歯車から届いた回転も、ブレーキが生む抵抗も、最後は小さな接地面を通って道路に届きます。

地面に接地するタイヤとトレッドの挿絵

疑問|車輪は回るのに、なぜ進めないことがある?

氷の上では、タイヤが勢いよく回っても車が思うように進まないことがあります。回転をつくる装置が元気でも、それだけでは前へ進めません。車を押す相手である道路と、力をやりとりできることが必要です。この力を伝える働きを、グリップと呼びます。

道路はタイヤを前へ押すだけではありません。止まるときは後ろへ、曲がるときはカーブの内側へ押します。タイヤは車の「靴底」のように、動き方のほとんどに関わっています。

問題|硬い輪を置くだけでは足りない

道路を近くで見ると、小さな石や凹凸があります。硬い輪では、その凹凸になじみにくく、衝撃も直接伝わります。一方、ただ柔らかければよいわけでもありません。大きく変形しすぎると、車の向きを正確に変えにくくなり、繰り返す変形によって熱も生じます。

さらに同じタイヤでも、乾いた道、ぬれた道、雪や氷では力の伝わり方が違います。「このタイヤなら、どんな場所でも同じだけつかめる」という一つの答えはありません。

発明|ゴムを道路になじませる

そこで、道路に触れる部分にゴムを使い、内部の骨格で形を支えます。路面に触れる厚いゴムの部分をトレッドといいます。トレッドのゴムは細かな凹凸に沿って変形し、実際に触れる部分では表面どうしの作用によって力を伝えます。凹凸を乗り越えてゴムが変形するときのエネルギー損失も、摩擦に関わります。

つまり、グリップは大きな爪で道路に引っかかるだけの仕組みではありません。目には見えにくい接触と、柔らかな材料の変形が一緒に働いています。

接地面が進む力と曲がる力を同時に受け持つ概念図。二つの力を合わせた矢印が限界の範囲に収まる様子。
接地面を上から見た力の模式図。点線は考え方を示すもので、実際の限界は真円とは限りません。荷重・路面・温度・タイヤの状態によって変わり、個々のゴムの変形は省略しています。

仕組み|少しの変形が力を生む

駆動輪が道路を後ろへ押すと、道路はタイヤを前へ押し返します。ブレーキでは逆に、接地面で後ろ向きの力を受けます。転がっているタイヤの接地面ではゴムが少しずつ変形し、力を支えています。車輪全体が大きく空転していなくても、力を伝えるための変形や部分的な滑りは起きています。

曲がる場合も同じです。車輪が向いている方向と実際に進む方向には小さなずれが生じ、トレッドが横に変形して横向きの力を生みます。この角度のずれをスリップ角といいます。名前に「スリップ」とあっても、必ずしも車全体が横滑りしているという意味ではありません。

ただし力には限界があります。曲がるために大きな力を使っていると、加速や減速に使える余裕は小さくなります。図の二本の矢印は、別々の無限の力ではなく、一つの接地面が分担する仕事なのです。

進化|つかむ力と転がりやすさを両立する

ゴムの材料や内部構造を工夫すると、ぬれた道での力、摩耗しにくさ、転がるときのエネルギー損失を調整できます。ただし、ある性能を伸ばす工夫が別の性能にも影響します。温度によってゴムの性質が変わるため、使う環境に合った設計も必要です。

電子制御は車輪の回転や車体の動きを調べ、駆動力や制動力を調節できます。それでも道路と直接触れるのはタイヤです。制御装置が、接触そのものの限界を消してくれるわけではありません。

この章の順番は理解のためのものです。歴史上の発明順序を示していません。

第4章・19 / 48