第4章 道路とつながる / 21 / 排水
雨の日に溝が働く理由
タイヤの模様は飾りではありません。雨の日には、道路とゴムの間に入り込む水の出口になります。

疑問|水たまりを踏む時間は、ほんの一瞬なのに?
タイヤの接地面は、転がるにつれて入れ替わります。進行方向の長さを仮に15センチメートル、速度を毎秒15メートルとすると、一つの部分が接地面を通る時間は約0.01秒です。これは説明用の計算ですが、水を逃がすための時間が短いことがわかります。
その短い間に、タイヤは水を押しのけ、道路と触れて力を伝えなければなりません。雨の日の問題は、単に「ゴムがぬれる」だけではないのです。
問題|水が間に残ると、道路に届かない
水は空気のようには簡単につぶれません。接地面へ入る水に逃げ道が少ないと、タイヤの前側で水の圧力が高まり、タイヤを持ち上げる働きをします。道路に触れる部分が減れば、加速・減速・旋回のための力も伝えにくくなります。
水の圧力によってタイヤが路面から浮き上がる現象を、ハイドロプレーニングと呼びます。一度に四輪全部が完全に浮く場合だけを指すわけではなく、接触が部分的に失われる状態もあります。水深や速度、タイヤの状態などが重なるため、どこでも共通の一つの発生速度は示せません。
発明|接地面の中に、水の通路を用意する
トレッドの溝は、水が流れる空間をつくります。進む向きに延びる溝は水を前後へ、横や斜めに延びる溝は側方へ導くなど、複数の通路が組み合わさって働きます。道路の凹凸にも、水を逃がす空間があります。
ただし、溝を増やすと道路に触れるゴムの部分が減り、一つ一つのゴムのかたまりも動きやすくなります。排水だけでなく、力の伝わり方、音、摩耗も考えて形を決める必要があります。
仕組み|溝の深さだけでなく、出口までの道が大切
水の通路は、入口から出口までつながって初めて働きます。大きな縦溝があっても、周囲のゴムの配置や横溝との組み合わせによって、排水の様子は違います。タイヤが押しつぶされると溝の形も変化するので、止まっているときの見た目だけで性能は決まりません。
摩耗で溝が浅くなると、水を通せる空間は一般に小さくなります。深い水や高い速度では、必要な排水量に追いつきにくくなります。また水があると、路面とゴムが直接触れる小さな場所での摩擦も変わります。大きく浮いていなくても、乾燥路と同じ力が出るとは限りません。
細い切れ込みをサイプといいます。ゴムの端を増やしたり、小さな水膜を扱ったりする働きがありますが、広い溝とまったく同じ役目ではありません。雪や氷を想定したものもあり、模様の細かさだけで雨への強さは判断できません。
進化|水を逃がしながら、形を崩さない
溝の幅や角度を変え、内側と外側で役割を分けるなど、設計にはさまざまな工夫があります。ゴムの配合も、ぬれた路面での力に関わります。排水の形と材料の性質を一緒に考えることで、性能を整えています。
それでも溝は、水を無限に吸い取るポンプではありません。雨の量や道路の水たまりは刻々と変わります。機械の仕組みを知ることは、路面条件が変われば使える力も変わると理解することにつながります。