MOTORCAR — KNOWLEDGE & TOOLS

第5章 止まる・守る / 27

タイヤがロックすると何が起きるか

車は進んでいるのに、車輪は回っていない。そのときタイヤは、止まっているのではなく道路を滑っています。

車輪、ブレーキ装置、ABS制御ユニットを示す概念挿絵

疑問|車輪が止まれば、車もすぐ止まる?

強いブレーキで車輪の回転が止まったまま、車が前に進む状態をロックと呼びます。タイヤの接地面は道路をこすりながら滑ります。車輪が回らないことと、車全体が止まることは別なのです。

普通に転がるタイヤでも、制動中には接地部分のゴムが変形し、小さな滑りが生まれます。「まったく滑らない」か「完全に滑る」かの二択ではありません。

問題|滑るタイヤは、向きを変える力を出しにくい

タイヤは、前後に減速する力と、横に曲がる力を、限りある路面との力のやりとりで生みます。前後方向の働きを大きく使うほど、横方向に使える余裕が小さくなります。

特に前輪がロックすると、ハンドルで車輪を向けても、期待した方向へ進路を変えにくくなります。後輪のロックは車の向きが乱れる原因にもなります。濡れた路面や氷では、小さな制動力でも限界に達することがあります。

解決のアイデア|回転が失われそうなら、押す力をゆるめる

ABSはアンチロック・ブレーキ・システムの略で、制動中の車輪がロックし続けるのを防ぐ装置です。車輪速センサーで回転を見ながら、必要な車輪のブレーキ圧を下げ、保ち、再び上げます。

運転者の代わりに、ただ一定のリズムでブレーキを断続させる装置ではありません。路面や各輪の様子に応じて調整し、車輪が転がる余地を残して、減速と進路を変える能力の両立を助けます。

タイヤがロックすると何が起きるかの概念図。車速50、車輪周速度40キロメートル毎時のとき滑りの目安は20パーセント。
図の周速度は、タイヤの有効な半径と回転数から求める値です。直進制動の説明用で、タイヤ変形の詳細・車速推定・左右差・実際の制御周期は省略しています。

仕組み|車の速さと車輪の回転を比べ続ける

車速をV、車輪の回転から計算した周速度をUとすると、制動時の滑りの目安は(V−U)÷Vで表せます。自由に転がる状態ではおおむね0、走行中の完全ロックでは1に近づきます。停止付近ではこの式の扱いに注意が必要です。

たとえば車速が時速50キロメートル、周速度が40キロメートルなら、この目安は0.2です。ただし、制御装置は車の本当の速さをいつでも直接知っているわけではありません。複数の車輪の情報などから推定し、回転の落ち方も見て判断します。

大きな制動力が得られる滑りの範囲は、タイヤや路面で変わります。ABSが常に同じ滑り率を狙うと決めつけることはできません。作動時にペダルへ振動が伝わる車もありますが、操作はその車の取扱説明書に従う必要があります。

進化|止まる制御から、車の姿勢を助ける制御へ

横滑りを抑える制御は、車輪速に加えてハンドルの角度や車の回り方などを見て、個別の車輪のブレーキを使います。ABSで培われた圧力調整の仕組みが、さらに広い場面で働くわけです。

ABSにも、路面との力を増やす魔法はありません。砂利や深い雪などでは、ロックした車輪が前に材料をためる効果があるため、ABSによって停止距離が長くなる場合もあります。停止距離が必ず短くなる装置と考えず、車間距離と速度に余裕を持つことが基本です。

この図鑑は理解のための順番で構成しています。歴史上の発明順序を示すものではありません。図は整備・製作の手順を示しません。

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